情熱大……楽 (DSP篇)

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『ウェポン・オブ・ナカムラ』(下)

「おい、優介。声がでてないぞ」

「……ハイ」

「ち、まったく。いらっしゃいませ~! 焼き鳥一本60円です、どうぞご利用下さい」

 他人のトラブルをひやかすのが大好きな先輩だけど、昨日歩ちゃんとと何があったのかを聞こうとはしてこなかった。先輩なりに気をつかってくれてるんだろう、僕の声が出ていない分も大声でカバーしてくれていた。

 ピリリリリリ……

 ショッピングセンターナカムラで働く者全ての店員のインカムに、緊急アラームが鳴り響いた。さらにインカムに連絡内容が告げられる。

「緊急事態発生! 緊急事態発生! 惣菜売り場にてスティールが発生しました! 現在南西方向に逃走中! 賊は、恐らく危険指数Sの、スパイク林田だと思われます、十分気をつけて下さい。タイムカード番号の末尾が1~3の人間は西方向の非常口、4~6の人間は南西入り口A、7~0の人間は南西入り口Bを封鎖して下さい!」

「おっと、今回はお別れだな優介。じゃ、頑張れよ!」 

 僕は気が進まなかったが、とりあえずうなずいて、西側非常口へ走った。


「一生自分を見下してればいい、か」
 
 僕は非常口の扉にもたれかかって、独り言をいった。5メートル程前には、各部署のタイムカード番号末尾が1~3の人間がワイワイ騒いでいた。皆、スパイク林田が獲物とあって、血が騒いでいるらしい。

 昨日の今日にあんなことがあって、僕にはとても、闘争心など沸いてこなかった。

「バイト、やめようかな」

 手に持ったナカムランチャーに目を落とし、ボーっとそんなことを考えていた。

 と、その時。

 近くから、「ウッ」とか「グッ」とか、うめき声が聞こえてきた。なんとなく、僕は前方を見つめた。

「え? あ!」

 僕の目は、驚きで大きく見開かれた。

 なんと、前方にいた集団の中で、華麗に舞っている男がいるではないか! バリバリのアフロヘアーにサングラス、体つきは意外とスリムだ。もちろん、舞っているというのは例えで、実際にはそいつは、蹴りや突きを芸術的に社員に叩き込んでいった。立っている社員の数は、みるみる減っていった。

「コ、コイツ! 死ねやぁ!」

 ズガン! 至近距離から社員の一人がナカムランチャーを発砲! しかしなんとスパイクは、撃ち出された模擬弾を蹴り上げ、次の瞬間撃った社員に蹴りを喰らわせていた。化け物じみた運動神経だ。

「ぼ、僕がやるしかない」 

 そう、少し後ろにいた僕は、今のところスパイクの眼中になかった。ターゲットサイトがないので、目測で、慎重に狙いをスパイクに定める。

「ど、どこだ。どのへんを狙えばいいんだ?」

 練習のときは、なんとなく、感覚的にだが、どの辺りに向かって撃てばいいのかが分かる。だから、練習の時の射撃の成績はむしろいいほうだった。

 だが、いざ実戦となるとワケが違う。緊張のせいで距離感は狂い、狙いが定まらないのだ。どこを狙ってもやはりもう少し右か、とか、もう少し下か、なんていう考えが頭をよぎって、いっこうに狙いは定まらない。そして今回も例外ではなかった。

「ハァ、ハァ、クソ、僕が当てなきゃいけないのに! クソッ、クソ、なんで狙いが定まらないんだよ! クソ、なんでだ、なんでこうなんだ僕は!」

 死ぬほど情けない。いっそ、死にたかった。焦りと、悔しさで、場違いにも涙が溢れてくる。戦闘中に泣いている男なんざ、僕ぐらいだろう、さすがは『泣っきー』だ。一応スパイクを睨みつけてはいるが、もはや涙で何も見えていない。もう、ボロボロ、最低だ。

 ふと、涙でぼやけた視界の中に、僕に迫ってくる男を捉えた。スパイクだった。どうやら、全員やられたらしい。

「カモン、ボーイ」

 ニヤニヤと笑いながら言うアフロ男のスパイク林田。

 次は僕の番、というワケだ。僕は覚悟して目をつぶった。


 どれくらい時間がたっただろうか? 一分? 三分? 五分?

 なかなか攻撃してこないので、とうとう僕はしびれをきらして目を開いた。

 そこには、誰もいなかった。目を閉じる前と違ったのは、スパイクがいなかったことと、後ろの非常口が開いていたこと。

「僕みたいなヤツは、倒す必要もないってことか。ハハハ」

 もはや、笑うしかなかった。自分に自信が持てなかったせいで、またしても僕は失敗を犯したのだ。もう、ダメだ。

「優介、無事だったか!」

 先輩だ。さらに続々と、この死闘の痕を見物にきた客がつめかけた。

「なんかとんでもないバケモノだったらしいな。お前だけでも無事で良かった」

「そりゃあ、無事ですよ。ずっと目をつぶって、怯えてただけですから」

「何? おい、優介?」

 僕は、先輩の横を通って、歩き出した。もう決心していた。 


 バタン、とロッカーの扉を閉める。一年以上使ったロッカーだ、少しだけ愛着も沸いていた。ふと、ロッカールームの入り口に人影を感じる。

「ハッ。失敗したから辞める、か? 単純だな、お前さんの頭は」

 予想通り、エージ先輩だった。大方、僕を引き止めにきたんだろう。

「ひきとめても無駄ですよ。僕は、一生自分を見下していくんですよ」

「なんだそりゃ? まぁいいさ。別に、オレは、お前さんを引き止めにきたワケじゃあない。ただ、一つ問題を出したくってね」

「問題?」

 こんな時に何を? てっきり引き止めにきたと思っていた僕は、少々拍子抜けした。  

「そうさ。さて、問題です。いつも自信が持てない持てないと嘆いている少年がいました。彼が、自信を持てない理由はなんでしょう?」

 ニヤニヤしながら先輩はそういった。自信が持てないと嘆いている少年。あからさまに、僕のことだろう。

「嫌味ですか、それ?」

「いいから答えろよ」

 自信が持てない理由……。いろいろある。昔、貧乏をからかわれたことや、この顔がコンプレックスになってるってこと。けど、はたしてそれが『答』なのか?

「……」

「ちょっと難しかったかな? んじゃ、ちょっと簡単にしてやろう。なぜ、その少年はナカムランチャーを使う自信がないんでしょう? なぜ、自分の狙いに自信がもてないんでしょう?」

「それは……その少年の性格に、問題があるからです。どんなに頑張っても、自信がもてない、そういう性格なんですよ、その少年は。まぁ、先輩みたいな人には分からないですよ、そういう人種の気持ちはね」

「ふ~ん。けどさ、どんなに頑張っても自信が持てないっていったけど、その少年は本当にそんなに頑張ったのかな?」

「な! 当たり前です! ちゃんとバイトが始まる30分前から射撃訓場にいって訓練してるし、何度か1時間近く居残り練習をやったことだってありますよ。人より頑張ってるのに、何故か自分に自信が持てない、そういうダメなヤツなんですよ、僕は!」

 いつのまにか、少年から僕の話になってしまった。

 先輩は、僕の熱弁を聞いて、満足そうにうなずいていた。けど、話が終わると、いきなり鋭い目つきで僕を睨んできた。いつものどこか適当な雰囲気ではなく、真剣だ。

「優介、オレの手、ちょっと見てみろ」

 そういって、先輩は手を差し出した。そこに差し出された手は、僕の予想と全然違う、先輩らしくない手だった。

 外側こそ普通だが、内側は……なんとマメだらけだった。そういえば、先輩はバイト中は、いつも薄い衛生用手袋をつけている。あれは、先輩が肉を触りたくないからだ、と思っていたが、実際にはこんな手で食品を触れられなかったからだったのか。

「ど、どういうことですか?」

「優介、オレが、お前より遅くバイトに来たことがあったか? お前より早く帰ることがあったか? たまに、一緒に帰るぐらいだろうが」 
 
 いわれてみれば、そうだ。まさか、と僕は思った。

「せ、先輩は……毎日早くきて訓練して、夜も居残り訓練をやってるんですか?」

 先輩はその質問には答えず、苦笑しただけだった。

「なぁ、優介。オレにもなかなか自信が持てない、そういうヤツの気持ちはよく分かるんだ。なんせ、オレもそういう人間だからな」

「へ? 何いってるんですか、先輩みたいな人が」

 いつも自信と余裕をもって行動する、エージ先輩からそういわれても、全く説得力がなかった。

「オレも、お前と同じ年ぐらいの時にはそうだったのさ。自分では頑張ってるつもりなのに、何に対しても自信がもてない、ダメなヤツ。けど、オレはあることに気づいたんだ」

「あること?」

「そうさ。オレは本当に頑張ってるんだろうか? てな。それから、一度だけ、死ぬ気で頑張ったことがあるんだ。もう、体がボロボロになるまで頑張って、誰にでも胸を張って頑張った! っていえるぐらいにな。するとな……」

「す、すると?」

「その、死ぬ気で頑張ったことに対しては、自信がついたんだよ。なんていうんだろ、死ぬ気でやってたことが、自然にでてくるカンジだな。それに、その死ぬ気で練習したことは、心のよりどころになるんだ。あれだけやったんだから、てな。で、オレはそれから少しずつ、死ぬ気で頑張って、自信が持てるモノを増やしていったんだ。だから、今なら結構いろんなことに自信がついてる、てワケさ」

僕は、どてっ腹に穴が開いたような、重いショックを受けた。

僕が自信をもてなかったのは、性格がどうこうより、ただ頑張りが足らないから、自信がもてなかった。

ただ、それだけだったのだ。

「なぁ優介。まだ、辞めるには早いだろ? 一回だけ、死ぬ気になってみないか?」 

 僕は、自分の心の奥底が熱くなっていることに気づいた。こんな気持ち、初めてだ。

 僕は、生まれ変われるかもしれない。僕は先輩に礼をいって、訓練場に直行した。


 ピリリリリリ……インカムに、おなじみの非常時用アラームが鳴り響く。

「緊急事態です。午後17時4分、2階の文房具売り場にてスティールが発生しました。スティールされた内容は―――」

「おい優介、昨日のデートどうだったんだ?」

「な! 今それどころじゃないでしょ! 放送聞きましょうよ! それに僕と彼女はそんな関係じゃないんですってば!」

「ハイハイ、さいですか。お前さん、そろそろ女の子とのつきあいも、死ぬ気になってマスターしたほうがいいんじゃない? そこは全然進歩してないし」

「ほっといて下さい!」

「しかし、酔っ払って告白してきたようなヤツの、どこがいいんだろうね、彼女も」

「だぁぁ、しつこいな! もう、行きますよ!」

「へいへい。け、年間最多撃墜賞とってから、急に態度でかくなったよな、お前」

「ウ……エヘへ」

 そう、僕はいつのまにか、ナカムランチャーにかけては誰にも負けない使い手になっていた。

 自分で納得いくまで、手がマメだらけになるまで練習した頃には、僕は自分の狙いに自信がもてるようになっていたのだ。
 
 まだまだ、僕には自信が持てないことがたくさんある。けど、もうそれで悩んだりしない。自信は、頑張り次第で、誰にでも持てるモノなのだから。     




おわり

by dkdkdkdkdk1 | 2002-12-28 00:00 | 過去作篇

ライトノベルも書いてるアルバイター大楽絢太が、情熱大陸ばりに現状垂れ流すブログ。最近は不定期更新!


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